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地域とともに50年、ぶれない経営の軸と変化の軌跡
嶋屋住設株式会社
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佐久穂町で半世紀にわたり、地域の暮らしを支え続けてきた嶋屋住設。水回りの設備工事を中心に、住まいに関する様々な困りごとに応えてきた同社の歴史や社風、今後の展望について、高野英次専務と社員の土屋さんに伺いました。
「ありがとう経営」への転換——お客さんの笑顔が原動力に
2025年に50周年を迎えた嶋屋住設は、1947年に米穀販売で創業した嶋屋義吉商店を源流とし、現社長の高見澤義光さんで3代目です。1960年代に始めたLPガス販売業が成功したことから台所やお風呂などの設備業にも進出、炊飯器やストーブといった家電も扱うなど、同社の発展の歴史は、地域の生活の変遷を映し出しています。
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嶋屋住設設立当時、事務所に家電の展示場も併設していた
経営理念として「お役立ちの精神を大切にし、水と住まいで、笑顔と絆をつくります」を掲げる同社は、嶋屋住設を設立した1975年から水と深く関わってきました。一般の顧客とさらに深く関わるようになったのは2000年代初頭、町内で下水道の整備が進んだことがきっかけでした。この頃に入社した高野さんは、各家庭に水洗トイレを設置する工事の注文が次から次に入り、順番待ちになるほどだったと振り返ります。
「当時はスタッフも10人くらいで、本当に大忙しでした。ただ、数年後には水洗トイレの普及が進み、当然のことながら需要が減って、会社の業績も下がり始めました」(高野さん)
黙っていてもお客さんが来る時代が終わると、同社は大手ハウスメーカーから、住宅の新築に伴う設備工事を請け負うようになりました。北は小諸市、軽井沢町から南は川上村あたりまで、営業をしなくても仕事はやってきます。ただし利益は少なく、「このままでいいのか」と方向性を模索する時期でした。
社長の高見澤さんが本格的に経営の勉強を始めたのは、この頃です。経営に関する研修で学んだ「ありがとう経営」という考え方を取り入れ、感謝の生まれる仕事、感謝を伝え合う組織という方向性を、毎朝の朝礼で全員で確認するようになりました。
その後、地域のお客さんから直接依頼されるリフォームの仕事を増やし、下請けから脱却していきました。
「トイレの水洗化がまだ終わっていないお宅はトイレ用の臭突が立っていて、外から見て分かるんです。そういうところに飛び込みで営業しました。また、以前にトイレの設置をしたお客さんが『そろそろキッチンやお風呂も新しくしたい』とお声がけしてくださることも増えてきました。そうやって直接お客さんに提案したり、要望を聞かせてもらったりして仕事をさせてもらうようになると、笑顔で『ありがとう』の言葉をいただけて、私たちも喜びを感じられます。これこそが一番大事なことじゃないかと、経験から学んでいきました」(高野さん)
震災復興支援が教えてくれた「水」の大切さ
お客さんからの相談に応えるうちに、仕事は水回りに限らず、サッシの交換や階段の手すりの取り付け、カーポートの建設など、多岐にわたっていきました。それでもあえて”水”を中心におく経営理念を重視する背景には、2016年の熊本地震の際、社長が熊本市まで給水の支援をしに行ったことがあります。
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社長の高見澤義光さん
どれだけ生活が変わっても必要性はなくならない。普段は簡単に手に入るけれど、設備の故障や災害などがあれば大きな困りごとにつながり、支援が不可欠。助けてあげられればお客さんの笑顔につながるもの。それが”水”だと新たに認識する機会となった経験でした。
これが、2011年の東日本大震災の直後に掲げた「お役立ちの精神を大切にし、水と住まいで、笑顔と絆をつくります」という理念を、再認識するきっかけとなったのです。
その後も、時代とともに仕事の内容は少しずつ変わっていきます。最近では、佐久穂町の自宅や実家から離れて暮らすお客さんから「不在の間、家を管理してほしい」という依頼が増え、定期的に見回っています。それに伴い、「空き家を買ってくれそうな人はいないか」という相談を受けることもあり、不動産のニーズも感じるようになりました。また、高齢のお客さんから「電球を替えてほしい」とか「テレビがつかない」といった様々な困りごとの連絡があり、しばしば訪問することも。これも、高齢者の見守りという新たな仕事につながりそうです。
いずれにしても、安易に流行に乗らず、地域の人々の暮らしを良くするという軸からぶれずにやっていくこと。それがお客さんからの信頼を積み重ねることになり、自社の経営の安定化にもつながってきたと、高野さんは振り返ります。
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高野さん
資格取得を支援、未経験者も立派なベテランに
現在の嶋屋住設は、会長と社長も含めて15名が様々な役割を担っています。請け負う仕事には資格が必要なものも多いため、資格取得に向けて講習会に参加できるように勤務シフトを調整したり、受験料を全額負担したりという形で支援をし、保有資格に応じて手当を支給しています。
今後、若手の未経験者が入社した場合には、職業訓練校に通って技能を身に着けてもらう計画です。
「だいたい6割は会社で通常業務に当たり、4割は学校に通うというような形になります。直近では社員2名が2年間職業訓練校に通い、2級配管技能士の資格を取得しました。卒業試験に当たる技能競技大会では、2名とも長野県で1位という好成績を修めています」(高野さん)
異なる業界から未経験で入社したこの2名も、すっかりベテランの域に達しました。後輩が来れば素晴らしい指導と教育をしてくれるだろう、と高野さん。一日でも早く若手の採用をしたいと考えています。
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1978年、国道141号沿いの今の事務所に移転した
なお、今いる人たちの入社理由は、東京の会社で働いていたけれど地元に戻りたくなった、製造業で働いていたけれど残業が多くそ の分の給料ももらえていなかった、など様々。現場で働くスタッフは、転勤がなく地元で働き続けられることに魅力を感じていたり、機械や器具を使って自らの手で何かを作るということに面白さを感じるという人が多いようです。
家庭との両立にも理解ある、会話の多い職場
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事務所は和やかな雰囲気
嶋屋住設では女性も4名働いており、工事の許可を取るための申請業務、リフォームをしたお客さんのアフターフォローやSNSでの情報発信、経理など、それぞれに重要な仕事を任されています。
2016年に入社した土屋さんは3年ほど前、家族の介護のために1ヶ月ほど休んだことがありました。
「介護のためにやらなければいけないことが立て込んでしまって、しばらくお休みさせてください、という話をしました。すぐに『ああ、いいよいいよ』って言ってもらえて、ありがたかったですね。結局1ヶ月経たずに落ち着いたので、また行きます、と連絡したら、それも『はい、どうぞどうぞ』って」(土屋さん)
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土屋さん
他にも子育てのために時短勤務をする人がいるなど、家庭と仕事の両立に理解があり、職場の雰囲気も良好だと語ってくれた土屋さん。社員同士で自然に雑談が始まることも多く「夕方になると必ず、今日の夕飯は何にする?と聞いて、その日の献立を考えるんです」と笑いました。
休日は、畑で野菜を育てたり、バイクに乗ったり、ゴルフをしたりと、自然の多い田舎ならではの生活を楽しんでいる人が多いようです。お客さんの希望で土曜日に対応することも多いため、今はシフト制で土曜日の出勤があります。ですが、最近は取引先も完全週休2日制を取るところが増え、重機が借りられない、足りない材料があっても週明けまで調達できない、といったこともあり、月に1回は完全土曜休日もつくりました。
「若い人は休日を大切にするし、世の中の流れに合わせて休みを増やしていく必要も感じているところです」と高野さん。大事な軸はぶらさず、会社を存続させていくには変えていかなければいけないところもあると指摘し、働き方やビジネスについて「新しい視点で提案をしてくれる人も大歓迎です」と期待を込めて語りました。
文:やつづかえり