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伝統の技で未来に残る家を作り、次世代を育てる

有限会社新津技建

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 長野県佐久穂町を拠点に、伝統工法による家づくりに取り組む新津技建。金具を極力使わずに手作業で木を組み上げる技術は、能登半島地震で被災した文化財の再建にも活かされています。環境に配慮し、永く住み継ぐ家を作るという信念のもと、若手大工の育成や地域の子どもたちの学びの場づくりにも力を入れる同社の取り組みについて、代表の新津裕二さんに伺いました。

石川県七尾市で築130年の老舗ろうそく店の再建に挑む

 新津技建は普段、地元の佐久穂町、佐久市、軽井沢町など東信地域の新築やリフォームを手掛けています。しかし、2025年5月からは石川県七尾市に通い、前年の能登半島地震で被災した「高澤ろうそく」というお店の再建に取り組んでいます。

 

 能登の仕事を請け負うことになった背景には、ろうそく店がある「一本杉通り商店街」に事務所を構える建築家、岡田翔太郎さんとの縁があります。5〜6年前、佐久穂町の古民家を再生するプロジェクトを始める際、「ぜひ一緒に仕事をしたい」と新津さんから声をかけたのが岡田さんでした。

 

 「彼と仕事のやり取りをしている間に能登半島地震が起き、ろうそく店の再建事業の相談を受けました。というのも、現地の大工さんの多くは”一人親方”と呼ばれる個人事業主で、大工さん自身や周りの人たちが被災されているなか、なかなか仕事を頼める状況になかったんです」(新津さん)

 ​高澤ろうそくは1892年に創業した和ろうそくの店で、築100年を超える店舗は登録有形文化財に指定されています。しかし地震で軒先が崩れ、母屋部分も傾いてしまいました。それをなるべく元の状態に戻し、2027年1月1日に再開することを目指しています(現在は仮店舗で営業中)。

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震災後のお店の様子

 これまでは新津さんと若い女性の大工に社外の仲間の大工を加えた4人体制で、2026年からは6人体制で石川県七尾市に滞在して工事を進めています。

 

 ろうそく店が建てられた明治期と今とでは建築の手法も大きく変わっているため、大工であれば誰でも携われるわけではないでしょう。日本の伝統的な家づくり——金具を極力使わず、手作業で刻んだ木を組み上げていく伝統工法——を実践する新津技建ならではの仕事だといえます。

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現地調査での様子

 「改修工事の内容は事前にある程度予想を立てていましたが、蓋を開けてみて初めて分かることもあり、考えていたよりも時間がかかっています。ただ、周りの人たちがとても温かく、気持ちよく仕事をさせてもらっています。大工としては、明治期から続いてきたお店を守りたいという高澤さんの想いに応えたいですし、文化財に指定されている建物を後世に残すという点でもとても意義があり、みんなやりがいを持って取り組んでいます」(新津さん)

伝統工法への転換を決めたきっかけ

 新津技建は新津さんのお父さんが創業した会社ですが、伝統工法にこだわるようになったのは新津さんの代からです。きっかけは、元は酒蔵だった古い建物の改修工事でした。今は新津技建の社屋となっている、築130年を超える建物です。

 

 当時の新津さんは、現在主流となっているプレカット材や新建材を用いた家づくりも同時に進めていました。両方をやることで、違いをはっきりと認識することになったのです。

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 「古い建物の改修で出てきた不要なものは、そのほとんどがゴミにならないんです。柱や壁、瓦なんかは土に還る素材ですが、現代の家の方は、人工的な素材が多く、リサイクルが難しいものばかりでした。大工として家を作るのは後世のためになる仕事だと思っていたけれど、実は逆のことをしているんじゃないか、これではいけないと気づきました。伝統的な工法を残していきたい、環境に配慮した家づくりをしよう、という想いが、そこから芽生えていきました」(新津さん)

 

 現代の家づくりでは、「プレカット」と言って工場であらかじめカットされた木材を使用することが一般的です。しかし新津技建では、製材された状態で節の位置や木の曲がり具合を見て、柱や梁のひとつひとつに適した木を選び、その木のどの部分を切り出して使うかを決めます。そうすることで、木が本来持っている力を活かした、丈夫な家ができるのです。

 

 そんな伝統工法の知恵と、現代的な断熱の手法を組み合わせた「温故知新の家づくり」を掲げ、夏は涼しく冬は暖かい、長持ちする家づくりに力を入れています。

文化・伝統を守る仕事と時代に合った人材育成の両立

 新津技建の社員はパート勤務も含めて13人ほど。7人いる大工の中には、20代の若手やアメリカから移住した人もいます。3年ほど前に若い女性がインターンを経て入社して以来、知人の紹介やSNS経由で新津技建を知り、門戸を叩く若者が増えました。

 

 伝統工法の技術を身に着けたいという場合、宮大工になるのもひとつの道です。そうではなく新津技建にやってくるのは、建築だけでなく暮らし全般における日本の文化や伝統に興味がある人が多いと新津さん。同社では家づくりの傍ら社員みんなで米作りや藍染めに取り組んでおり、それも会社の魅力のひとつになっているのです。

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加工場では、ベテランと若手が一緒に作業をする様子が見られる

 採用の面談などで新津さんは、「大工になるならなるべく早いうちに覚悟を決めた方が良い」とアドバイスするそうです。相当の覚悟とやる気があれば30代に入ってからでもできないことはない。でも、できれば10代後半や20代前半から大工の仕事に就いて職人向きの身体を作るのが望ましい、という意味です。

 

 体力と技術がモノを言う厳しい世界ですが、それを苦に辞めていく人は出ていません。日本の文化や伝統を大事にするという会社のあり方にピンと来て、自分がそこで何を得たいかをイメージした上で働き始めた人たちだからでしょう。加えて、社員の自立を支え、待遇面で配慮する会社の姿勢も寄与していると思われます。

 

 「自分が若い頃は日曜日しか休みがないような状態でしたし、もっと前の時代は丁稚奉公と言って年に2回しか家には帰れない、仕事も教えてもらうのではなく親方のやり方を見て覚える、というのが職人の世界でした。確かに、一人前の大工になるにはさまざまな経験し、時間をかけて技術を磨いていく必要があります。しかし、時代も変わり、自分の代ではそういった育成体制と現代の働き方のバランスを見ながら、若手大工が働きやすい環境を整えています。さらに、ただ技術を身に着けられれば良いというわけではなく、いずれは家庭をもって一家の大黒柱になれるよう、きちんと生活を守ってあげたいと考えています」(新津さん)

本物の素材の価値を知っていることが強みに

物価高騰が続く昨今、家づくりにかかる費用もどんどん上がっています。お客さんが希望する家を建てようとしたら想定されている金額の1.5倍はかかる……というような状況で、相談を受けても注文にまで進まないケースが増えているそうです。新築の家は贅沢品になっており、経済的に豊かな人でないと手が出なくなっているのです。

 

そこまでお金を出せない場合でも生活の質を上げる手段として、新津技建では、大工ならではの目利きが活きるリフォーム事業にも力を入れています。他にも、最近ではレストランや商業施設の仕事も増えたりと、当初と比べて仕事内容が多様化しています。例えば、有機栽培で野菜を作る農家の施設を建設する仕事では、環境負荷が少なく、将来にわたって残っていく自然の材料で家を作るという考え方が、施主の理念とも合致しました。

 

「本物の木や石というのは、とても長持ちするんです。人工の材料で表面的によく見せるのではなく、本物を使うことの価値を理解し、選ぼうとするお客さんは増えていると感じます。自分たちは普段からそういった材料に触れ続けているので、その魅力を十分に伝えることができるし、メンテナンスのやり方なんかもきちんと説明できます。お客さんが十分納得した上で選んでもらえるのが、私たちの強みだと感じています」(新津さん)

「温故知新」で生きる力を、地域の子どもたちにも

新津技建の事務所の前には、築150年以上の土蔵を移築した「体験宿泊施設 布流久佐(ふるくさ)」があります。使われなくなって解体の危機にあった蔵を救い、新しい役割を与えたのです。

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元々使われていた自然素材を活かし、現代のライフスタイルに合わせて、立派に蘇った蔵

 新津さんは、「布流久佐」に2つの意味を与えました。ひとつは都会から田舎への移住を考える人たちが、この地域ならではの暮らしを体験できる施設としての役割。室内には現代的なキッチンやお風呂なども備わっていますが、外の井戸やかまどを使って料理をしたり、藍染をしたりと、普段はできないアクティビティが楽しめます。

 

 もう一つは、「災害に強い暮らし」のモデルとしての役割。もし電気が途絶えても、断熱のしっかりした家と井戸やかまどがあれば生活を続けられるということを、実際の建物を通じて伝えようとしているのです。

 

 「祖父がよく『人間、米を食べてれば死なない』って言っていたんです。米と大豆や塩なんかがあって、あとは家と水があれば、とりあえず生きていけますよね。全部が昔のままというわけにはいかないけれど、暮らしのインフラを全部他人に任せず、ある程度自力で生きていけるような要素を残しておきたいという思いがあって、こういうことをやっています」(新津さん)

 

 地域の子どもたちにも、そんな想いや技術を伝えたいという新津さんは、小学生が大工体験と藍染体験を通じて昔ながらの衣食住のあり方を学ぶカリキュラムや、中高生向けの場作りも考えています。

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2025年に佐久穂小学校3年生を対象に行った藍染体験の様子

 「手を使って作るという体験は、ものが作られて手元に届くまでの過程や、この地域ならではの暮らし方や仕事の可能性なんかについても考えるきっかけになるはずです。それを、小学校4年生くらいのカリキュラムに組み込んでもらうことを、学校に提案したいと思っています。それから、中高生向けに『藍染部』という活動もできたらいいな、と。藍染だけでなく草木染や泥染め、柿渋染といった色々な染め方を試すのもいいですし、染めるときの絞りにこだわるのもいい。機織りで布を作る活動なんかにも展開できます。そういったことをしてみたい子にうちの事務所の2階を解放して、部室として使ってもらう。そんな地域貢献もやっていきたいです」(新津さん)

 

文:やつづかえり

 

有限会社新津技建ウェブサイト

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