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多様な役割のチームワークで実現。
一軒一軒が違う家づくりの醍醐味
大栄建設株式会社
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JR小海線 八千穂駅前の大栄建設は、1954年の創業以来、町内や東信一帯で新築やリフォーム等を手掛けてきました。家づくりとはどんな仕事か、組織づくりのために行っていることなどを、社長のパートナーで専務取締役の三石ふじ江さんに伺いました。
予定通りにいかず悩んでも、段取りがはまると楽しい
「不思議なことに、新築が多い年、リノベーションが多い年というのがあるんです」とふじ江さん。「ひとつ終われば、またひとつ始まる」という形で、最近は新築の仕事が続いているそう。
家づくりの仕事は、住まい手の家族構成や生活スタイル、家に対する思い、どのような土地に建てるかなどにより、一軒一軒が異なるもの。それが難しい部分でもあり、完成したときの喜びでもあります。
最近はSNSなどでイメージをふくらませ、「こういう家にしたい」とより具体的な希望をもつお客さんも増えています。それを受け止め、プロ目線でアドバイスしながら設計に落とし込んでいくのも大事な仕事です。
「『それは構造的に無理です』とか、『将来的なことを考えたら、こうした方がいいですよ』ということもあって、こちらも譲れないところがあります。それでも『これならできますよ』といったアイデアを出しながら調整していきます」(ふじ江さん)
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専務取締役の三石ふじ江さん
昔は設計図を手で描いていましたが、今はPCでできるようになりました。顧客と打ち合わせをしながらその場で設計図を修正し、3D画像でイメージを見せられるなど、ITの力で提案力が格段に上がっています。また、Zoomなどのビデオ会議が普及し、こまめに打ち合わせできるようになったのも、IT化のありがたいところだと感じているそうです。
顧客とのすり合わせを重ね、設計が終わると、いよいよ工事に入ります。しかし、天候の影響などで計画通りに物事が運ばないことも多々あります。
「予定通りにいかなくて悩むことはよくありますよ。でも、あれこれ考えて段取りをとるうちに、それがスポッとはまって好転していくことがあって。そういうときに、嬉しさを感じますね。
解決のコツは、先延ばしにしないで動くことです。『これがダメだったら、こう』と次々に動いていく。自分たちが動かないと相手も動かないですからね。お客様に対しても業者さんに対しても、『このままではまずいです』というこちらの思いが伝わると、あちらも動いてくれて、なんとか間に合ったね、ということがよくあります」
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住宅だけでなく店舗の建設もあり、取材時は地元「八千穂漁業」の、加工場兼直売所の新築工事が大詰めを迎えているところでした。
お客さんとしての関係から社員になる人も
会社のメンバーは社長とふじ江さんを含めて10人。そのうち現場に出るのは主に3人で、左官職人が左官だけでなく基礎工事もやるなど、それぞれが幅広い役割をこなします。いつもお願いする社外の大工さんや専門業者さんとも連携を取り、同時に複数の現場をチームワークで進めていきます。
「最近はITツールで現場の状況を共有できるようになって、『今ここまで進んでいるから、そろそろ現場に入れるね』といったやり取りが、社外の業者さんともスムーズにできるようになりました」(ふじ江さん)
10人の男女比はちょうど半々で、30代が3人、50代が3人、60代が4人。新卒や若手も募集していますが、なかなか採用と定着が難しいという課題を抱えています。
試しに大手就職サイトに求人を出してみたこともありますが、面接を直前にキャンセルされたりしてうまくいかなかったとのこと。一方で、最初は新築やリフォームのお客さんだったところから、社長にスカウトされて、あるいは「ここで働きたいです」という希望を伝えて社員になった人もいます。
顧客や地域との関係性を大事にする会社だからこそ、お客さんとして触れる機会があると会社の魅力が伝わりやすいのかもしれません。
これまでのお客さんには3ヶ月に一回、社員の近況、家づくりやメンテナンスに役立つ情報などを掲載した情報誌を届けるほか、毎年1月には餅つきをして交流の場としています。以前は太鼓の演奏グループや高校の吹奏楽部、オカリナの演奏家を招くなどもっと大規模に開催していましたが、コロナ禍でいったん中断しました。その後、餅つきだけでも、と復活させて今に至ります。
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訪れた人にお餅を振る舞うほか、子ども向けには輪投げなどのお楽しみコーナーも準備
新たな試みとしては、お客さんや地域の人が家具づくりに挑戦できる工房を開く構想があります。そのため、現社屋の隣にある以前の事務所の片付けを進めているところです。
「家を建てるお施主様がDIYで家具を作ったり、子どもたちが自分の勉強机 を作ったり、そんなことをサポートできる場所にしたいと考えているんです。ここで家具を作った子が建築に興味をもったり、将来の選択肢を広げるきっかけにもなればいいですね」(ふじ江さん)
歴史ある建物を改修し「みんなの顔が見える職場」が実現
10年前に移転した現在の社屋は、一見すると旅館か商店のような立派な建物です。元々この地域で長い歴史を持つ、佐久通運株式会社の営業所だったものを譲り受け、10年前に大規模な改修を経て今の姿になりました。
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それ以前の社屋は小さな2階建ての建物で、社長や管理部門のメンバーがいる執務室が2階、現場スタッフの休憩室が1階にありました。現場から戻ってきたスタッフと話そうと社長が1階に降りると、もう誰もいない……といったことがよくあったそうです。
今の建物は1階がショールームで、2階が事務所です。現場スタッフが帰ってくると、「お疲れさま、どうだった?」という会話が自然に交わされるようになりました。「みんなが同じフロアで仕事できるようにしたいというのが昔からの希望だったので、本当に良かった」とふじ江さん。2階からは南に八ヶ岳、北に浅間山が見え、八千穂駅に出入りする列車の様子も分かり、時間や季節の流れを感じられるところも気に入っているそうです。
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ワンフロアになってコミュニケーションがしやすくなった事務所。座る場所によって異なる景色が楽しめる
恒例のカレンダー配布を見直しーー対話が生んだ変化
上下関係が厳しいイメージがある建築や職人の世界ですが、若い人を育てていくには昔ながらのやり方では通用しません。社長やベテランの職人も考えながらコミュニケーションをとっており、時には社員と社長との間をふじ江さんが仲介することもあります
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ふじ江さん自身は、結婚後しばらくしてから他の仕事を辞めて大栄建設に入り、経理や営業などを担当してきました。自分自身が試行錯誤をしながらやってきたので「これが正解」と押し付けることはなく、最近入った社員にもどんどん改善してもらいたいと考えています。
「ペーパーレスにした方がいいとか、会議のやり方を変えたいとか、みんなの意見やアイデアを少しずつ取り入れていっています。
最近大きく変えたのは、年末に500件近くのお客さんを回ってお届けしていたカレンダーを、希望制にしたことです。若い人から『年末が忙しくて大変だから、カレンダー配布を見直しましょうよ』と言われたのがきっかけです。
『なんとか届けなきゃ』と思ってやっていたけれど、確かに大変だったし、お客様の方から要らないよ、と連絡をくださる方もいたんですよね。だから『分かった。来年からどうしたらいいか、みんなで考えよう』という話をして、これからもカレンダーが欲しいかどうかを往復はがきでお尋ねすることになりました。そうしたら3分の2くらいのお客様からお返事をいただいて。カレンダーの要不要だけでなく色々とコメントを書いてくださる方もいて、そこから新しい工事につながったケースもありました。往復はがきのコストはかかりましたけど、それがお客さんとのやり取りのきっかけにもなったし、やって良かったです」(ふじ江さん)
ふじ江さんはこの件で、「自分たちが続けてきたことに縛られていたところもある。いろいろと意見を出してもらうことは大切だ」という思いを新たにしたのでした。
興味があれば足を踏み入れて——多様な役割がある家づくりの仕事
「私たちは後を継ぐ人が決まっているわけではありません。でも、地域で の家づくりはずっと必要とされるものです。20年前に建てさせていただいたお客さんから、『子どもが家を建てるから』とお問い合わせをいただくこともあります。だから、どんな形であれ会社を残していきたいですね」(ふじ江さん)
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ショールームにはこれまで手掛けた住宅の模型がずらりと並ぶ
家づくりを続けていくためにも、若いメンバーに加わってほしいところです。自社に来てほしいのはどんな人? という質問に「家づくりに興味がある人」と答えたふじ江さんは、「大工さんの仕事だけがイメージされるかもしれないけれど、他にも色々あるんですよ」と付け加えました。
「お客さんと打ち合わせをして、内装や照明などのプランを提案をする仕事もあれば、土地選びもあります。それから「積算」(設計図や仕様書に基づき人件費・材料費・工事費など工事原価を算出すること)という仕事も。専用のソフトウェアを使うのですが、数字や数学が好きな人なんかにどんどんやってもらえるとありがたいですね。家づくりって本当に、いろいろな役割があるんです。
でも、若い方は『これが一生の仕事』だなんて決めなくていいんですよ。他にやりたいことができれば辞めてもいいと思います。やってみなければ分からないから、興味があればちょっと足を踏み入れてもらえるといいな、と思います」(ふじ江さん)
文:やつづかえり